【獣医師が解説】犬の歯周病の症状と体に起きる影響とは?
歯周病と言う単語は人間でもよく耳にしますね。実際にどういった状態が歯周病なのかご存知ですか?
歯の汚れ=歯周病、口臭=歯周病というわけではありません。また、歯周病が原因で内臓などにも影響がでてきます。
ここでは歯周病の症状や対策についてお伝えしていきます。
目次
犬の歯周病ってどのような状態?
愛犬の口の中を見てみると、見える範囲に歯石が確認できるかもしれません。
しかしこの歯石がある状態のことを歯周病というわけではありません。
犬の歯周病は多くは歯肉炎や歯周炎のことを指します。これらは歯周ポケットの中の歯垢が大きく関わっています。
歯垢と歯周ポケットについて
まず歯垢は食べかすなど様々なものから作られ、細菌の塊のようなものです。放置すると歯茎に炎症を引き起こします。
歯茎に炎症が起きることで歯と歯茎の間に溝ができてしまい、溝の部分にさらに多くの細菌が入り込みます。この溝の部分が歯周ポケットです。
歯周ポケットに細菌が入り込み増殖することで歯周病になります。歯周ポケットが深いほど周囲組織に炎症が広がり進行していきます。
また一部の歯垢は石灰化し歯石に変化します。歯石自体はザラザラしているので、歯垢さらにつきやすくなります。歯周ポケットに覆いかぶさることで細菌が増殖し、揮発性硫黄化合物と呼ばれる臭い物質が放出され口臭になります。
犬の歯周病の症状
歯周病になると、どのような症状が出ると思いますか?
もしかしたら今までなんとなく見過ごしていた症状は、意外に歯周病が原因かもしれません。ぜひ愛犬でチェックしてみてくださいね。
犬の口が臭う・歯茎の腫れや出血がみられる
愛犬の唇をめくってみましょう。口の中は臭いますか?
唇をめくった時に歯茎が赤く腫れている、少し指で押すだけで出血がみられることがあります。おもちゃやお食事を口にしたときに血がつくこともあります。
歯のぐらつき、抜け落ちる
重度歯周病により、歯の歯根部の周囲組織が溶けてしまい歯を保持できなくなります。そのため歯がグラグラしたり抜け落ちたりします。知らない間にすでに歯が抜けていることもあります。
成犬では、永久歯は上顎:切歯6本/犬歯2本/前臼歯8本/後臼歯4本、下顎:切歯6本/犬歯2本/前臼歯8本/後臼歯6本の合計42本あります。もともと生えていない場合もあるので若いうちから確認しておくと良いですね。
口元を気にする、よだれがたくさん出る
歯周病で痛みや違和感があって口元を気にすることや、臭いの強いよだれがたくさん出ることがあります。
特に口の周囲が常に濡れている、または前の手や顎が濡れている場合はよだれが多く出ていると思われます。
口の片方で食べる、よくこぼす
今まで普通に食べられていたのに、最近フードの噛み方がおかしい、食べてもこぼしてしまう場合はおそらく口に違和感があります。
口の片側ばかりに食べかすがついている場合は、歯周病の状態かもしれません。
口を開けたがらない、食事中痛がる、奇声をあげる
口を開けたがらない、フードを噛む際に痛がる。今まで通常のドライフードを食べていたのに柔らかいものしか食べたがらない。食べている最中に奇声をあげる。
このような場合は歯周病によって歯が動揺している状態や痛みを感じているのかもしれません。
頬が腫れる
数日で急速に頬が腫れることがあります。歯の根元の部分で膿が溜まっている状態で、眼窩下膿瘍(がんかかのうよう)といって眼の下・頬の付近が腫れてきます。
膿が多い場合は皮膚に穴が開き、中の膿が流れ出ます。抗生剤で一時的に良くなることもありますが、基本的には原因となる歯を抜歯しない限り再発します。
くしゃみ、鼻水、鼻血
上顎の歯周炎が重度になると口腔鼻腔瘻(こうくうびろう)といって、鼻腔と口腔がつながった状態になってしまいます。その場合、くしゃみや鼻水、鼻血がでることがあります。
症状から人のように風邪やアレルギーなどの鼻炎などを考えてしまいそうですが、歯周病が原因のこともあるので注意が必要です。
涙焼け
涙が出る原因は様々ですが、特に片眼だけ涙の症状が出る場合は、歯周病が原因のケースがあります。
犬の歯周病の対策
症状の程度によって犬の歯周病対策の内容が変わります。
ごく軽度の歯周病
歯周病の中でも歯肉炎であればホームケアでも治る可能性があります。歯肉が少し赤い程度であれば、まずは歯磨きなどの口腔ケアを行いましょう。
犬の口が臭う・歯茎の腫れや出血がみられるなどの症状が出ている歯周病
既に重い症状がみられる場合は、動物病院での歯周病処置が必要になります。
歯に関しては、歯の表面の歯石を超音波スケーラーで取り除き、研磨により歯のザラザラを取り除きます。歯周病は歯周ポケットの治療がメインとなります。そのため、歯周ポケットの部分の汚れも念入りに処置します。
麻酔をかけることに抵抗があるかもしれませんが、歯周ポケットの処置はご家庭や無麻酔下での歯石取りでは行えません。
またすでに歯根部まで悪くなっている歯に関しては抜歯を行います。すでに動揺している歯や、歯根部が大きく露出している歯は見た目だけでも抜歯が必要と判断できます。
見た目が綺麗でも根元が悪くなっている場合があります。その場合は歯科用レントゲンを撮ることで確認します。
人間の場合は歯のレントゲンを撮る事はさほど難しいことではありません。しかし犬の場合は歯のレントゲンを撮ることが難しいです。
基本的には麻酔をかけた状態でレントゲンを撮影する形になります。
すでに持病をもっている、または健康でも高齢で麻酔がかけられない場合もありますよね。その場合は今よりも歯が悪くならないよう、歯ブラシなどでケアしていきましょう。
歯周病で起きる体への影響
犬の歯周病は口腔内だけの影響にとどまらず、全身へ影響を及ぼす可能性があります。
口周りへの影響
歯の周りの組織が歯周病菌により破壊されることで、歯肉や骨に痛みが生じることがあります。痛みが生じると口を動かしにくいため、ご飯が食べにくくなります。そうすると体重減少につながります。
また、顔の変形や顎の骨折を起こしやすくなります。
口は鼻や目にも近い部分なので、くしゃみ・鼻水・涙がでることがあります。
全身への影響
獣医学の領域でも、歯周病に関係している菌が全身性に菌血症を誘発することが報告されています。
これは歯周病菌が放出する様々な炎症性介在物質などが、歯周ポケットから全身に入り込んで、影響を及ぼしていると考えられています。
また、人間の方では心臓・腎臓・肝臓疾患、早期新生児低体重、血栓形成、細菌性肺炎と歯周病との関連が強調されているため、犬においても関連性が指摘されています。
犬の歯周病は予防できる!
歯周ポケットができる前からできるだけ早期に歯磨きをしてあげましょう。歯周病を予防することができます。
歯肉炎であれば治すことができますが、歯周炎まで進行すると治すことができません。将来、できるだけ歯を温存するために歯周病予防することはとても大切です。
まずは歯周病の症状がでていないかチェックしましょう
人と違い、犬は歯をみせてお話しないので、普段の生活で歯を見る機会は少ないですよね。
そのため歯周病を発症しているかわかりにくく、深刻な状態になってから気づくことが多いです。今回ご紹介したような症状があった場合は歯周病の可能性があります。一度かかりつけの動物病院に相談すると安心です。
まだ症状が出ていない場合は、歯を温存できるよう今から歯磨きをしてあげるとすごく良いですね。
この記事を書いた人
千葉 恵
獣医師
日本獣医生命科学大学卒業
卒業後、千葉県の動物病院にて小動物臨床に従事